最終周のルクレールのブレーキングがハイライトに——ラスベガスGP

ファイナルラップ、ロングストレート後の14コーナーでルクレール(右)がペレスを追い抜く

サンパウロGPに続き、またもファイナルラップがハイライトとなった。主役は2位争いのペレスとルクレール。バックストレートエンドの14コーナーでルクレールが鋭いブレーキングでペレスのインを刺し、レッドブル2台に割って入る2位をもぎ取った。

最終ラップ、実質的な最終コーナーとなる14コーナーでのオーバーテイク

殊勲のルクレールと、ブロックを欠いたペレス

予選でポールポジションを獲得し、レースではフェルスタッペンを実力でパスして首位を走ったルクレール。作戦次第では優勝もありえたが、最終周のブレーキングにはフェラーリのエースとしての闘志と誇りを感じさせた。

一方のペレスは2戦連続で最終周で抜かれる憂き目に遭った。14コーナー侵入ではインがガラ空きで、ストレートの始まりで0.7秒差あったルクレールへの警戒が欠けていたように思える。

あるいは、フェルスタッペンのトゥを得るために、彼の真後ろを走ることを意識しすぎたのかもしれない。

この日のレッドブルはレース終盤、首位フェルスタッペンの速度を落としてペレスに近づけさせ、彼にトゥを与えるチームプレーを採っていた。最後の最後でそれが仇と出たのだろうか。

DRSを使った直線途中ならともかく、出口側が狭い14コーナーのブレーキングでアウト側から他車を被せるのは困難だ。ペレスがイン側のブロックラインを走っていれば2位で決まっていただろう。

個人的にはルクレールのブレーキングが6割、ペレスのミスが4割で決着した攻防だと感じる。

優勝したフェルスタッペン(中央)、2位ルクレール(右)、3位ペレス

サンパウロのレース後はアロンソと笑顔で抱擁したペレスだったが、今回のレース後インタビューでは終始表情がさえず、少々血の気が引いたようにも見えた。

それでも、ペレスの年間ランキング2位は確定し、フェルスタッペンもペレスへの協力を惜しまぬ姿勢をみせた。チームは笑顔で最終戦を迎えられるだろう。

ルクレールの勝機がSCで失われた?

時間をスタートに戻そう。

ポールポジションはルクレールだったが、2番グリッドのフェルスタッペンがスタートで素晴らしい蹴り出しを見せ、イン側からルクレールに並びかかった。(ここのところのレッドブルのスタートのよさは驚異的だ)

しかし、フェルスタッペンはブレーキが間に合わず、ルクレールを道連れにする形でコースをはみ出す。のちに5秒ペナルティを課せられた。

スタート後、フェルスタッペンがルクレールを道連れにコースをはみ出す。
後方でもアロンソがスピンするなど大混乱に

2位に落ちてもルクレールのペースは好調で、50周レースの16周目にフェルスタッペンを抜いて首位を奪還した。シンガポールを除けば今シーズン、フェルスタッペンがドライ路面でタイヤ条件が同じ相手に追い抜きを許すのは極めて珍しい。

26周目にセーフティーカー(SC)が入ったことで、状況が変わる。ルクレールは1回目のタイヤ交換から間もないことからステイアウトを選んだが、ほかの上位勢は全車がタイヤ交換でピットに入った。

各車のタイヤ交換タイミング。上位3台ではSCでタイヤを替えたレッドブル勢と、無交換のルクレールで明暗が分かれた

トラックポジションを重視するあまり、タイヤのライフによるペース差を無視するフェラーリ——。この悪癖がまた出たのか? SC中のタイヤ無交換がたたってルクレールが首位争いから転げ落ちた、2022年イギリスGPの記憶がよみがえった。

3つどもえの後半戦をフェルスタッペンが制する

幸いにも、ステイアウトのルクレールとタイヤを替えたレッドブルとの「相対的なペース差」は小さかった。レース中盤のSC明け以降はルクレールとペレス、そして、5秒ペナルティとラッセルとの接触ダメージを乗り越えて3位に上がったフェルスタッペンの3つどもえのバトルとなった。

一度はペレスがルクレールを抜いて首位に立つが、十分引き離せぬまま抜き返される。その間にフェルスタッペンが忍び寄り、ペレス、ルクレールの順にパスして37周目に首位を奪回。通算53勝目へと駆けていった。

37周目、フェルスタッペンがルクレールをかわして首位に返り咲く

フェルスタッペンはルクレール追撃の最中、「ペレスに自分のDRS圏にとどまるよう言ってくれ。2台でルクレールを攻撃しよう」と無線を飛ばした。首位に立ったレース最終盤には、2位に上がったペレスまでバックオフしてトゥを与えるチームオーダーに快く従った。

チームオーダーにまつわる軋轢が表面化した昨年のサンパウロGPとは大違いだ。「順位を譲る行為ではないから」という本人の考えがあるかもしれないが、チームメイト間の協力関係にまつわる疑念がようやく晴れた気がする。

ベッテルに並ぶ通算53勝を挙げたフェルスタッペン

ルクレールは2位に入ったが、SC導入時にタイヤを替えたほうが「絶対的なペース」でレッドブルを上回ったように思える。ルクレールはレース後、フェルスタッペンから「SCのときにみんなピットに入ったよ」と聞かされたとき、明らかにショックな表情を浮かべた。同じタイヤ2回交換同士で戦えたら、どの程度勝機があっただろうか?

眠れない午前4時——誰のための開催時間?

今回の観戦記では、金曜日の問題に触れないわけにはいかない。

コース上のウォーターバルブのフタが十分に固定されておらず、マシンが通過する際にアンダーフロアの空力の影響でフタが浮き上がり、サインツ車に重大な損傷を与えた。FP1はこのトラブルで開始後10分弱で打ち切りとなり、コース内すべてのマンホールなどのフタを整備し直すためにFP2が予定より2時間半遅い、現地時間午前2時半の開始となった。

マンホールのフタが外れた箇所。アロンソは危険を察知して避けたが、サインツは衝突してしまう

FP2開始が大幅に遅れた影響で、観客は訳も分からぬままスタンドから締め出され、無観客でセッションが行われる事態となった。(無観客となったのは、サーキットの警備員のシフト時間が過ぎたため、とされる)

マンホール問題でバクーの教訓が生かされなかったのは大変残念だ。しかしそれ以上に、当初の開始予定からして午前零時。観客を帰してまで午前4時までFP2を開催するのは観客への責任や、チーム関係者の健康をどう考えているのだろう、と思う。

ドライバーは睡眠サイクルをレース時間に合わせたり、クルーも交代制を採るなどの対策を取ったりしているかもしれないが、それにしても午前4時はひどい。

自分たちの落ち度にもかかわらずサインツへPU交換ペナルティを課したスチュワードの判断も疑問だ。一説にはサインツ車は2億円程度の損害を被ったとされる。補填されるのだろうか?

現地時間22時の決勝開始は欧州でも見やすい時間にするため、と説明された。しかし、ロンドンで午前6時、パリやアムステルダムでも午前7時開始で、それほど見やすいわけでもない。

リバティ・メディアが重要市場とみなす米国でも、決勝開始はニューヨークやフロリダが午前1時、テキサスが午前零時で、観客席まで来場するような熱心なファンを除けばほとんど見る人がいない、本末転倒なタイムスケジュールになった。

22時の時間設定は、単に「ラスベガスで一番カネが落ちる夕方から夜間は、極力F1とバッティングしないでほしい」という開催地側の意向が大きいのでは?と邪推してしまう。

来年以降の改善に期待

レースは1.8キロの全開区間を生かした熱戦が繰り広げられたが、コースは直角コーナー主体でモンテカルロのロウズヘアピン、バクーの城壁、シンガポールのアンダーソンブリッジなどの名物コーナーに欠ける、と感じた。今後、幾多のバトルが刻まれれば名所としての位置づけが確立していくのだろうか。

ラスベガス新名物の球体ディスプレイ

ラスベガス新名物の「MSGスフィア」と呼ばれる球体ディスプレイもレース中は盛り上げに役立っておらず(レース映像は表示できないのだろうか)、あちこちの電光掲示板もチカチカして、雑然としたように感じた。

レース中の演出は、まだこれからだろうか。

(※追記:レース前イベントを未見で記事を書いてしまったため、華やかなショーを反映した見解になっていませんでした。追記のうえお詫びします)

記録を塗り替えるか否か。重みのある最終戦に

次戦はいよいよ最終戦のアブダビGP。レッドブルは88年のマクラーレン・ホンダ以来の「年間1敗」の達成、及び「最多勝率」の記録更新がかかる。

一方、他チームにとっても最終戦は「消化試合」ではなく、来年に向けた弾みをつけるための1戦だ。20年のフェルスタッペンや15年のロズベルグのように、惨敗したシーズンの最終戦を勝利で締めて翌年の捲土重来を果たした事例も多い。

引き締まった好勝負を期待したい。

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