盤石のレッドブル、戦えたフェラーリ、角田の憤怒——開幕バーレーンGP

キャリア最盛期を感じさせるフェルスタッペン

フェルスタッペンが2年連続で開幕戦を制し、タイトル4連覇へ好発進を決めた。2位にもペレスが入り、レッドブルは2年連続の開幕戦1-2。作戦ミスやマシントラブルなどで浮き足立つライバルを尻目に、盤石のレース運びだった。

騒動の渦中でも揺れないレッドブル

開幕直前、レッドブルはクリスチャン・ホーナー代表によるチーム内の不適切行動の疑義がかかった。現時点でも騒動は収束していない。

上層部の混乱がチームの指揮系統に影響しないか少々期待(?)したが、オペレーションに乱れはなかった。フェルスタッペンは予選でポールポジションを獲得し、レース終盤はクルージング状態でトップチェッカーを受けた。

ペレスはトップと0.358秒差の予選5番手にとどまったが、レースでは1台ずつ冷静に交わして2位に入り、昨年イタリアGP以来9戦ぶりのチーム1-2を決めた。

昨年後半に不振を極めたペレスがオフシーズンで復調したなら、チームにとってこれ以上ない朗報だろう。

ラッセルを抜き、順位を上げるペレス

(今回のチームの結束は「邪魔な代表を追い落とせそうだから」という点にあるのでは、と考えるのは邪推に過ぎるだろうか?(笑))

冷静に問題に対処したフェラーリ

ルクレールはスタート後に2位を走ったが、鋭角左コーナーの10コーナーのブレーキングでタイヤスモークを上げる場面が頻繁にみられ、ズルズル順位を落としていった。

一度目のタイヤ交換を挟みながら、真後ろについた僚友のサインツと接触寸前のバトルをみせたが、チームは順位の入れ替えを判断。57周レースの17周目にルクレールは大人しくサインツに道を譲った。

チームメイト間のバトルを野放しにせず、チームが即座にサインツを優先させたのは朗報だ。かつてのフェラーリはこの手のチーム内バトルを放置して、ライバルに先を行かれる場面が頻繁にあった。

レース序盤、ルクレールとサインツが接触寸前のバトル。17周目にルクレールはサインツの後ろに下がる

ルクレールはブレーキ温度が左右で100℃も違っていたという。終盤に挙動は安定したように見えたが、ピットからの指示でやりくりしたのか、ルクレールが自力でブレーキバランスを調整したのかはわからない。

トラブルはあったが、レッドブル2台に続く3位サインツ、4位ルクレールの結果を得た。

フレデリック・バスール体制2年目でチームにまとまりが出たのかはまだ判断できないが、レッドブルに続く第2集団の先頭を確保した意義は大きい。

サインツは今シーズンをもってフェラーリを離脱する。チームに遠慮する必要がない立場が、よいほうに作用すればいいと感じる。

予選が速いルクレールと、レース運びが手堅くチームに物を申せるサインツの組み合わせがハマれば、フェルスタッペンを脅かす場面も出てくるだろう。

チームへの憤怒をみせた角田

チェッカー後のパレードラップで議論を呼んだのが角田裕毅の行動だった。

レース残り5周、12位を走るマグヌッセン攻略のためにチームは13位の角田を下げ、リカルドを前に出すチームオーダーを発動した。角田は「冗談だろ!?いまさらかよ!!」と無線で激高した。

角田へのチームオーダーの場面

結局リカルドのペースも伸びずマグヌッセン攻略は失敗したが、角田に順位を返すことなく13位リカルド、14位角田でゴールした。(この手のチームオーダーの場合、ライバル攻略に失敗したなら順位を返すのが暗黙の礼儀だ)

角田は不可解な作戦と、不義理を働いた(と感じた)リカルドに激怒。パレードラップで8コーナーのイン側からリカルドを抜きにいき、少々オーバーラン。リカルドもコーナー立ち上がりのアウト側を軽く締めたように見えた。構わず角田は抜いていく。

チェッカー後に速度が違う2台がたまたま8コーナーで交錯しただけ、との解釈もできるが、オーバーラン後もあえて抜きに行った角田の行動に明確な意思を感じた。

チェッカー後のパレードラン。角田とリカルドのオンボード

角田の動きは無意味だし、危険だ。13位を巡って頭に血が上るなんてどうかしている。開幕早々にチームの人間関係を崩す醜態をさらしてどうするのだ——。

・・・との意見はもっともだ。

しかし、11位スタートにもかかわらずチームの作戦は14位にしか導けず、終盤のチームオーダーもドライバーの自尊心を傷つけただけで意味不明。新体制の開幕戦でさっそくタガが緩んだ。

そんなチームに闘争本能ムキ出しでゲキを飛ばし、怒りをわかりやすく示すのもドライバーの役割だ。レース後のインタビューで愚痴をこぼしても負け犬の遠吠えに過ぎない。

これまでチームを引き締めてきたトスト氏はいないのだ。

なにより角田とリカルドは来季レッドブル昇格を賭けた「査定レース」が24戦続く立場だ。このままRB(レーシングブルズ)が沈む一方でペレスが手堅い走りを続けるなら、レッドブルは「来年もペレスでいいか」ということになりかねない。チームに1戦たりとも脇の甘いレースをしてもらっては困るわけだ。

レース後の角田のインタビュー

角田の怒りが功を奏してチームが息を吹き返し、結果的に「愛のムチ」だったと評されるのか。最終戦まで尻すぼみで「開幕早々の蛮行だった」となるのか。シーズン末に今回の行動の評価が決まる気がする。

(※もっとも、チームは大きな作戦ミスを犯したわけではない、との見方もある)

余談だが、ドライバーのゲキとしては、アロンソが2015年のホンダPUを「GP2エンジン!!」と酷評したことを思い出す(無線がTV中継に流れることは彼の本意ではなかったようだ)。ホンダは屈辱をバネに7年越しでタイトルを獲得した。

ジンクスではフェルスタッペン4連覇

F1のタイトル連覇は5連覇のシューマッハが最長で、4連覇のファンジオ、ベッテル、ハミルトンが次に続く。その次はセナやアロンソらの2連覇で、「3連覇どまり」の事例は存在しないこととなる。

このジンクスにならえば、フェルスタッペンが4連覇に伸ばす可能性は極めて高い。

しかし、今後23戦でその流れを覆すライバルの登場に期待したい。相当険しい道だとは思うが・・・。

笑顔で写真に収まるフェルスタッペンとペレス

2024/3/7追記
角田の怒りの根底は「コミュニケーションの不協和」?

F1ラップタイム研究室」のTakumiさんとの会話で、今回の角田の怒りは残り5周のチームオーダーの是非だけではなく、角田とエンジニアの「コミュニケーションの不協和、信頼の欠如」が根底にある、との推察に至りました。

Takumiさんの見立てでは「ラップタイム的にチームオーダーは正しい」とのことですが、仮に同じ指示をフェラーリやメルセデスで下した場合、ドライバーはどのような反応をするでしょうか?

サインツは信用しなさそうですが、ボノがハミルトンに指示した場合は「詳細はレース後に聞こう」と語ってチームメイトに順位を譲った気がします。エンジニアの指示がドライバーのプライドを傷つけるものだとしても、その判断に信用を置けるか置けないかの違いです。

角田のデビュー後3年間の蓄積で、エンジニアの意見を素直に聞くか聞かないかの違いが出たように思います。単なる1戦の問題でないため、重症と言えます。

しかし、RBだけの問題ではなく、ハミルトンとボノほどの信頼を置けるパートナーはそうはいないと思われます。

コメントを残す